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「人生を変えた一枚」
スウェーデン伝統音楽との出会い
ショップで偶然見つけた『スカンジナビアの渓谷より』(1993年、Ocora)というアルバムは、当時としては数少ないスウェーデン伝統音楽の国内盤だった。大きく揺らぐビート、うねるようなグルーヴ、旋律にぴったりと並走するハーモニー、流麗なオーナメント。レーナ・ヴィッレマルク、ペル・グドムンドソンのフィドル、アレ・メッレルのマンドーラから溢れ出る躍動的な演奏は一瞬で私の心を鷲掴みにした。まさに人生を変えた一枚。
2002年7月に訪れたファールン・フォークミュージック・フェスで初めてアレ・メッレルのライヴを目の当たりにする。何種類もの楽器を操る超絶的な演奏もさることながら、彼はWorld Heritage Orchestraという新しい活動をスタートさせていた。この時の出演者は、マリア・ステッラス、ママドウ・セネ、セバスティアン・デュベ、ラファエル・シダといった後のアレ・メッレル・バンドのメンバーのほか、ヨハン・ヘディン(ニッケルハルパ)、アリ・ベイン(フィドル)といった顔ぶれで、大陸をまたいだ様々なスタイルの音楽がアレ・メッレルのディレクションのもとで一つになるという、奇跡のような一大スペクタクルだった。
2011年2月にはアレ・メッレル・バンドが初来日。フィドルをはじめ様々な弦楽器をこなす大阪公演でのマグヌス・スティンネルボムの演奏は、楽曲に対するコンセプトやアレンジを完璧に理解したもので、アレ・メッレルの右腕とも呼べる存在感があった。
あれから14年、ヴェスタノー・バンドを率いてマグヌス・スティンネルボムが再来日を果たす。バンドの動画や音源の演奏はどれも洗練されていて、あれからキャリアを積み、伝統と革新を併せ持つ演奏家、作・編曲家として円熟した彼の手腕が伺える。妻のソフィアをはじめ、メンバーの演奏は多彩で独創的。セバスティアン・デュベが加わっているのも本当に嬉しい。
私自身は初めてスウェーデン伝統音楽を聴いたあの日の衝撃や、当時まさに伝統と革新の旗手であったアレ・メッレルの神がかったパフォーマンスを観て腰を抜かした日の興奮を、次世代のリーダーが率いるヴェスタノー・バンドを通じて追体験できるのではないかと楽しみで仕方がない。

大森ヒデノリ Hidenori Omori
フィドル・ニッケルハルパ奏者、作曲家。
関西学院大学文学部美学科卒業後、ダンスリールネサンス合奏団でフィーデル奏者として中世・ルネサンス古楽を演奏。以後、アイルランド、スコットランド、スウェーデンの伝統音楽に傾倒し、20年以上にわたり活動。2007年、邦人初の北欧コンセプトアルバム『白夜弦想』をリリース。近年はニッケルハルパの演奏・作曲を中心に、オリジナル楽曲をコンサートやレコーディングで発表している。
HP ▶ こちら

『スカンジナビアの渓谷より』(1993年、Ocora)

『アレ・メッレル・バンド』
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